ある進化。

我が家にはよく間違い電話がかかってくる。
番号が悪いのか、運が悪いのか、それとも日頃の行いが良くないのか、とにかくかかってくる時には、心底うんざりするほどかかってくる。

「すみません、△△(某超人気ゲームソフト名)の新作予約はいつからですか?」
「あ、ユミコ?俺だけど」
「たかし、たかし!あんた今まで何してたの!お母さん心配で心配で」
「いつもお世話になっております、○○(<某有名企業名)の営業の××ですが。」
「ピー(ファックス送信音)」

ちなみに我が家の電話はFAX対応になっていないので、特に最後のヤツには、ほとほと参った記憶がある。機械だけに融通が利かないというか、根性があるというか。
最近はめっきり減ってきたものの、年に数回はこの手の電話がかかってくる。慣れとはおそろしいもので、最近では電話のコール音で、本当に我が家にかかってきたものか、そうでないかがわかるようになってきた。

同じNTTの回線を使って(ひょっとしたらKDDかもしれないし、IP電話かもしれないけれども)間違い電話だからコール音が違うということはないはずだ。無論、我が家の電話機が気を利かせて鳴り方を変えてくれているわけでもない。そもそも科学的に考えれば、コール音で違いがわかるというのはナンセンスである。ナンセンスなのだが、わかる。ほぼ9割の確率でわかる。

頭の中にアンテナがあって、それが反応しているみたい。

あんまり夫が不思議がるので、ある時こう説明したら、間髪いれずにこう切り返された。
「・・・進化?」
まぁ、考えてみれば、進化は必然から起こるものだし。

その電話は、コール音からして胡散臭かった。件のアンテナも間違いだとアドバイスしている。
普段なら、忠告に従って無視するその電話に、思わず出てしまったのは、単に魔が差したからとしかいいようがない。

「失礼ですが、○山××さん(夫の名前)のお宅でしょうか。」
「そうですが、あなたは?」
「あなたは××さんの・・・奥様でいらっしゃいますか?」
「そうですけれど。」

妙に冷静な、けれどもどこかうわついた感じのする、若くもなければ老いてもいない男の声を聞いた途端、頭の中で、見えないアンテナがさらに強烈に反応するのがわかった。

この電話、間違い電話だ。

「実は本日午前9時28分頃、ご主人が人身事故を起こされまして、で」
「失礼、確認取ってからでもよろしいかしら?」
「・・・・ええ、もちろん。」

切ってすぐ確認した相手の電話番号は無論非通知。念の為、夫に確認を取ったが「何の話?」

そこで思い出したが、数ヶ月前の昼休み、駐車中の車に追突事故を起こした夫は、保険屋よりも警察よりも会社の上司よりも先に、我が家に連絡してきたのだった。電話がかかってきたのは10時半過ぎ。本当に事故なら、何より本人から泡食って連絡してくる筈だった。ガッデム、そうとわかっていればもっと気の利いた答えをしたものを。(オレオレ詐欺のニュースを初めて聞いた時から、いつか我が家にかかってきた時の為に、いろんなシチュエーションで答えを考えていた。)

間違いの意味は若干違ったが、正しく反応したアンテナに感謝しつつ、人間、いざとなると大した事は言えないものだと、しみじみ悟った私だった。