シンデレラの秘密。

「・・・あの。」
「何?」
「・・・あのさ。」
「だから何?」
「奥さんにお願いがあるんだけど。」
「何?」
「12月24日のお昼ね、お昼なんだけど、会社で忘年会兼ねたクリスマスパーティがあるんだ。」
「(なるほどそれで昼を強調してたわけね)それで?」
「なんかさ、ホテルのレストランでやるらしくて、結構豪華な感じなのよ。あ、会費は大丈夫、俺出せると思うから。」
「ふーん。で?」
「俺さぁ、そういう場所に来ていけそうな服持ってないんだよね。仕事は作業着だし、休みはレンタルビデオ屋とか、草野球とか、ラフな格好で行けるとこしか行ってないっしょ?かといって、ブラックスーツはちょっと改まりすぎだし。」
「そうだねぇ。」
「別にスーツとかじゃないくていいからさ、買ってくれない?ホテルのレストランでも浮かないような服。」
「・・・・まあねぇ。シンデレラじゃあるまいし、まさか服がないから行けませんなんて、言えないしねぇ、41歳の大人が。」
「じゃ、いいね?買ってもいいね?怒らないね?よかったぁ、だってさ、節約するからって、奥さんこの頃全然服買ってないじゃん。俺だけ買ってもらうのなんだか悪くてさ。」
「あははは。」
夫、君には話してないことなんだけど、母のお下がりだといってあるウールの小紋や、正絹の色無地道行紬の名古屋帯縮緬の長羽織縮緬鼻緒の桐の下駄、実は全部君のお給料で買ったものなんだよ。

ぜんぶりサイクルだから値段的にはユニクロで服を買うのと同じなんだけど、だから家計的にはそれほど響いてないんだけど、君よりは全然不自由してないから。

少なくともホテルに食事に行くのに、服がなくて困るようなことはないから。

見た目はそうかもしれないけど、実は衣装持ちのシンデレラだから。
「じゃさ、今度一緒に買いに行こうよ、ね?」
無邪気に笑う夫の顔を見ながら、久しぶりにずきずきと痛む良心を隠しつつ、頷く私だった。ごめん、夫。