B型の夫、A型の妻。

夫は探し物がとても苦手だ。

例えば目の前に置いてある新聞に気が付かず、隣の部屋で一生懸命探していたりする。靴箱にしまったお気に入りの革靴はどうしても見つけられないし、外出用のシャツは、クローゼットの一番前にかけてあるにも関わらず、私に出してもらうまでどこにあるのかわからない。

だから引出しの一番下にしまってある靴下は、もう1年以上出番がないし、休日の早朝(というよりむしろ明け方)まだ眠っている妻子を起さないよう、そっと出掛ける時に着ていく服は、気候も季節も関係なく、グレーの長袖ポロシャツに、もういい加減年季が入って風合いが綿からレーヨンに変わり始めたチノパンだ。(どちらも洗濯のローテーションの関係で、引出しの一番上に入っている。)

夫は私が片付けすぎるからわからないのだと言うのだが、私にしてみれば、こんなにわかりやすい場所に置いてあり、仕舞ってあり、かけてあるものを、見つけられない夫の方がわからない。

そのくせ夫好みの美脚、美乳、ロングヘアの妙齢の美女は、どんな時も、どんな場所でも瞬時に見つけられる。例えそれが、常人なら確実に死角になる距離、角度、速度(運転中)であっても、見逃すことはまずあり得ない。もしかして夫の頭には、妖怪アンテナならぬ美女アンテナでもついているのじゃないかと思うことがある。目の前の新聞に気が付かないのに、時速80キロで走行中、右斜め後ろ50Mの角を曲がってきた美人には気が付く夫。人間は、不思議だ。

さて、先週の日曜日。夕食の仕度をしている間、野球中継をBGMに、大輔に遊ばれていたと遊んでいた夫だったが、5時を回り、ハッチポッチステーションが始まったのを潮に、キッチンへやってきた。
「今日の献立、何?」
「鶏の治部煮、茄子と油揚げの炒め煮、それから豆乳スープ。具は玉ねぎとジャガイモと人参ね。」
「じゃ、ちょっとビール買ってくるわ。」
「あ、悪いけど片栗粉、あったら買ってきて。あったらでいいから。」
「OK、OK。片栗粉ね。」
30分後、気に入りの銘柄があったとかで、上機嫌な夫がレシートと一緒に渡してくれたのは、日清製粉「日清フラワー薄力粉」であった。
「・・・・・・頼んだのは片栗粉だったんだけど。」
「え?あ、そうだっけ?まぁいいじゃん。どっちも粉だし。」
確かにどっちも形状は粉だが、片栗粉はジャガイモのでんぷんが原料小麦粉は小麦が原料、原料も性質も用途も全く違うということを、夫の肩をがっしり掴み、顎関節が外れて分解し崩壊するまで揺さぶりながら、説教したい衝動をかろうじてこらえながら、いくら探し物が下手だとはいえ、ここまで違うものを買ってくるとはそもそも人の話を聞いてない証拠、そういえば夫は興味のない話はまったく記憶に残らない性質だったことを思い出し、せめてメモを持たせるんだったと後悔しつつ、明日から夫の夕食はしばらくお好み焼きにしようと心に誓う私だった。