翼をください。

おかあさんといっしょ」のエンディング、「あ・い・う」は大輔一番のお気に入りだ。とりわけみんなでジャンプするところが大好きで、TVを見ていない時でも、母にそこだけ歌えとせがみ、歌にあわせてジャンプする。・・・しているらしいのだが。
「・・・大輔、何してんの?」
「・・・ジャンプしてるつもりなのよ、あれでも。」
体を低く低くかがめて、足を曲げ、思いっきり後ろにを両手を振り上げて、ジャンプ!の筈が、飛ばない。まったく飛ばない。全然飛ばない。激しく上体は動いているのに、下半身は深く曲げられたまま、微動だにしない。何度も何度も振り上げられる両手は、回数を追うごとに激しく、強く、速くなり、鳥の羽ばたきさながら、そこだけ見ていれば、今にも空へ飛び立ちそうに思える。・・・思えるのだが。
「・・・・飛べないね。」
「身が重いからねぇ。」
ジャンプする、という行為は、全身の筋肉がバランス良く発達していなければできない。決して脚の力だけで飛んでいるわけではないのだ。脚の力で浮き上がった体を上半身の筋肉が支え、持ち上げる。そうして初めてジャンプすることができるのである。
1歳9ヶ月にしては発育の良い大輔だが、14kgの体重を支え持ち上げるには、まだまだ上半身の鍛え方が足りないらしい。
飛びたい。でも飛べない。だから飛びたい。
必死にはばたく大輔の姿に、思わず胸を熱くしながらも、私達は思い出していた。
ゆっくりと地平の彼方に沈んでいく、巨大な太陽に照らされて、金色に輝くサバンナの大地。その大地を、昂然と頭を上げ、二本の脚でしっかりと踏みしめて、遥か彼方を見つめる巨大な鳥のシルエットを。
「ダチョウってさ、羽ばたくんだっけ?」
「走りながら羽ばたいてた気がする。」
見れば体は低くかがめたまま、激しく羽ばたきながら走る大輔。わずかに飛んでいるような気はするけれど、ジャンプと呼ぶにはまだまだ遠い。
それでも彼は諦めない。とっくに画面は切り替わり、ケイン・コスギが子供達と一緒におかしな顔をして笑っていたが(注:「からだであそぼ」の冒頭で、自分の顔を粘土細工に見たてて、いろんな顔にしてみせるコーナーがある)お構いなしで羽ばたき続け、走り続ける。やがてジャンプする為に羽ばたいていたことを忘れ、単なる腕振りに変わっていたが、彼は走っていた。走り続けていた。
「ダチョウってさ。」
「ん?」
「走り出したら止まらないらしいよ。すごく忘れっぽいからさ、なんで走ってるのか、途中でわかんなくなっちゃうんだって。」
「・・・へぇ。」
「ほんとかどうかはわかんないけどさ、少なくともうちのダチョウはそうみたいだね。」
飛べない鳥、大輔。君があの大空に翼を広げ、自由に飛べる日が来ることを、母は、父は、信じています。