愛犬はスナイパー。

大輔を公園に連れていく準備をしていた時、ふと庭を見ると、愛犬が鎖をポールに絡ませて身動きがとれなくなったらしく、地べたに寝転がったまま、大層難儀している様子だったので、解いてやろうとガラス戸を開けて庭に下りた。
近くで見ると、一体どうやったものか、ひどく複雑に絡み付いていて、なかなか解けない。首輪に繋がったわずか15cmほどを残して、後は全部ポールに巻きついている。
かなり前からこの状態だったらしい愛犬シロ、早くなんとかしてくれとキュウキュウ鳴いて哀願する。わかってる。わかってるけど、どうすりゃいいんだ、この鎖。それでもなんとか、半分ほど解いたその時だった。
ガン。
顎に猛烈な衝撃を受けて、思わずその場に崩れ落ちる私。視界は一瞬真っ白になり、意識はつかの間吹っ飛んだ。朝なのに、星が見えた。それも複数の。
自由になって嬉しかったのか、それともひさしぶりに遊んでもらおうと思ったのか、とにかく私に飛びつこうとしたらしいのだが、いかんせん、体勢が悪かった。
寝転がった状態から、目標をよく確認せずに強引に飛びあがったものだから、頭が私の顎に激突。手加減なしの全力でジャンプした、体重14kg雄7歳中型犬の脚力は半端じゃなかった。しかも犬にあるまじき石頭。
シロよ、笑いながら尻尾振ってる場合じゃないぞ、おまえ。
みるみる腫れる私の顎。触ってみると、ぶよぶよと異様に熱く、柔らかい。慌てて鏡を見てみれば、赤く丸く膨れ上がり、実に見事なお椀型をしていた。
「・・・・・・・。」
公園へ行くのはもちろん、その日の予定がすべて中止になったことはいうまでもない。
大輔が熱を出した時の為に買っておいた「デコデコクールS子供用」の封を切りながら、せめて夫が帰ってくるまでには、腫れが引いて欲しいものだと、心の底から思う私だった。