押して駄目なら引いてみよ。

母がキッチンに篭って作業している時、少し前まではゲートにしがみついてひたすら泣き喚いていた大輔だったが、最近になって、ただ泣くだけでは、あまりにも芸が無いということに気が付いたらしい。
PCに向って急ぎのメールに返事を書いていた時(我が家のPCはキッチンに置いてある)、何かが視界の隅をよぎった。
見ればがっくりと肩を落とし、うなだれて足元を見つめたまま、和室から階段の方へとぼとぼと歩いていく大輔。そのまま2階へ行くのかと思いきや、階段の上がり口に着いた途端、くるりと方向転換すると、あきゃあきゃ笑いながら元来た道を全力疾走していった。
「・・・・・。」
そのまま様子を見ていると、すぐにまた、先程と寸分違わぬ打ち萎れた様子で和室から現れ、とぼとぼと階段の上がり口まで歩いていく。そして終点に着いた途端、あきゃあきゃ笑いながら元来た道を全力疾走で戻っていった。
「・・・・・・。」
肩を落とし、打ちひしがれて歩いていく前半。満面の笑顔で走り去る後半。1歳7ヶ月にして、演技のメリハリを意識しているあたり、我が子ながら大輔、只者ではないと見た。しかも母が見ていることに気付いた途端、それまではただ勢い良く走るだけだったのが、急に花道を通る役者さながら、両手を上げて見栄を切り出すのだから恐れ入る。(そしてその後は全力疾走)
メールの返事はほぼ書き終わり、後はざっと見直して送信するだけになっていたのだが、あまりといえばあまりに意表を突いた攻撃に、思わず視線は廊下に釘付け。さんざんパフォーマンスしたところで、そろそろいいだろうとにっこり笑ってゲートの前に立ち、両手を出して抱っこをせがんだ大輔を、思わず抱き上げてしまった。(そしてそのままメールのことも忘れて遊んだ私。)
大輔、恐るべし。将来が楽しみである。