日本はまだまだ平和です。

恐ろしい夢を見た。
あまりに恐ろしくて、夢の中で気絶してしまったので、目を覚ました時にはどんな内容だったのかまったく覚えていなかった。覚えているのは、絶え間無く降る雪と「父上、母上」必死に呼び続ける子供の声、それだけだった。
目が覚めてしばらくは、頭の中にこびりついた恐怖の断片に、ひたすら怯えていたのだが、夢の余韻が薄れるにつれ、今度は猛烈な好奇心が沸きあがってきた。
気絶するほど怖い夢。
余韻だけで怯えるほど、恐ろしい夢。
一体それは、どんな夢だったのか。見たい。さわりだけでいいから見てみたい。
そしてそれを脚本にして、映画会社に送りつけてみる、というのはどうだろう。いや、いっそ小説にして某ホラー大賞に応募する方が賢明かも。何しろ見ている本人が気絶するほど恐ろしい夢なのだ。評価されないはずが無い。
そんなことを考えるうち、気分はすでに入選といった感じになっていた私だったが、ふと、大事なことに気が付いた。
気絶するほど恐ろしい夢。それはすなわち、それ以上見ることはおろか、記憶することさえ脳が拒否するほど恐ろしいということ。
同じ夢を、もう一度見ることは可能かもしれない。一度は気絶したほどの恐怖に耐えて、最後まで見続ける事も、もしかしたら出来るかも知れない。けれど目覚めた後まで夢を覚えていられるかどうか、仮に覚えていたとして、その夢を、何度も反芻しつつ文章に起すことが、果たして出来るのか。
もしかしたら大傑作の卵が眠っているのかもしれない自分の頭を抱えて、一人悩む私だった。