冷蔵庫の忘れ物。

今年のバレンタイン・チョコレートは、シンプル&クールをテーマに選んだ。小さな黒のケースに赤いリボン。チョコレートもちょっと苦めで大人の味。有体に言えば、自分が食べたいチョコレートだった。
「チョコレートは冷蔵庫にいれてあるからね。」
いつもより2品も多くおかずを作り、綺麗に盛り付け並べた後、帰りの遅い夫にメモを残して、寝室に上がった。帰ってくるまで待っていようと思ったのだが、どうしたものか大輔の甘えんぼ攻撃が凄まじく、寝入るまではもちろんのこと、寝入ってからもしがみついて離れない。仕方が無いのでそのまま朝まで眠ることにした。
朝、目覚めると夫はすでにいなかった。キッチンに行くとテーブルの上に、昨日食べたチョコレートの箱が残っていた。箱の表には、チマチョゴリを着た女性が、ハングル文字の横で淑やかに微笑んでいる。・・・チマチョゴリ??
「や、ただいま。」
「ああ、お帰り。・・・・ねぇ、これ、昨日食べたの?」
「うん。ありがとう。おいしかったよ。すごく甘くて。」
コンビニで買ってきたスポーツ新聞を手に、上機嫌でリビングに消える夫。私は無言で、手にした箱を裏返し、そこに印刷された数字を確かめた。
2004・1・31
「ねぇ、」
「何?」
「お腹、大丈夫?」
「別に?何で?」
夫よ、あなたが昨夜食べたのは、一昨年あなたの友人が、韓国土産にくれてから今まで、ずっと冷蔵庫に入れっぱなしになっていたチョコレートです。しかもとっくに賞味期限の切れた。
いくら夫婦とはいえ、そんなことが言えるはずはもちろんなかった。
せめてもの償いに、いつもなら何度もお願いされて渋々始める夫の大好きな耳掃除を、自主的に、いつもの倍以上の時間をかけてしたのだが、夫はそんな妻の行動を不審がることもなく、ただただご機嫌だった。ごめん、夫。万が一の時には、誠心誠意尽くさせて頂く覚悟ですので、どうかご安心を。