ネバーギブアップ。

風呂上りに髪を乾かしていた時のこと。
何気なく鏡を見ると、アンダーバストに妊娠線が出来ていた。ちょうど乳房の下のあたり。持ち上げて初めてわかる微妙な位置に、うっすらと、しかし確かに網目状の模様が刻まれていた。一瞬、ブラのサイズが合わなくて、跡がついたのかと思ったが、この模様、この質感この色合い、どう見ても妊娠線。
何てことだ。産後1年5ヶ月も経って気付くとは。例えて言うなら、勢いにまかせて書くには書いたが、勇気がなくて、そのまま机の中にしまっておいた何年も前のラヴレターを、年末の大掃除の折、偶然発見したようなものだろうか。どちらも恥かしさと懐かしさが、微妙に絡み合うあたり、よく似ている。あと、そこはかとない自己嫌悪と。
それにしても、妊娠中、トップバストは確かに2サイズ程大きくなったが、アンダーバストはまったく変わらなかった筈。妊娠線は、急激に皮膚が膨張した時に出来るもの。だとすれば、まったく膨張していないアンダーバストに妊娠線が出来るわけがない。ということは。
1年5ヶ月もの間、沈黙を守り続けていたこの網目模様。乳房の下に隠れた刻印の意味するところは、つまり。
荒涼としたこの砂漠、かつてはここも、命育む豊かな海だったのだ。(訳:授乳でおっぱいがしぼんで垂れた。)
妊娠初期ならいざ知らず、産後1年5ヶ月も経ってケアしても、所詮無駄だということは百も承知で1本5000円の高級クリームを塗りたくりながら、どうせなら、もっとすっぱり諦めがつく年齢まで、気付かずにいれば良かったのにと、しみじみ思う私だった。