人生50年。

小林千登勢さん*1死去。(享年66歳)
団令子さん死去。*2(享年68歳)
相次ぐ同世代の死にショックを受けたのか、母から電話がかかってきた。
「60代なんて、まだまだ若いと思ってたけど、よく考えたら、昔はみんな60代で亡くなってたのよね。」
「何言ってんの。お母さんは元気じゃない。若いわよ。」
「でもねぇ。ほら、あんたも知ってるでしょ。近所の歯医者さん。亡くなったのよ、院長先生。」
「え、あの先生まだ若いでしょ。55、6くらいじゃない、まだ。」
膵臓ガンだったって。いい人だったのにねぇ。穏やかで、腕も良くて。やっぱりあれね。憎まれっ子世にはばかるっていうけど、いい人は早く亡くなるのねぇ。私もいつ向こうに行くことになるか。人間って儚いわねぇ。」
「・・・・・・・。」
若い頃からそうだが、母は、少々思いこみの激しいところがある。
世の中には、円満な性格で長生きの人もたくさんいる筈だが、今それを言うと、間髪入れずに高射砲のような切り返しがくることがわかっていたので、黙っていた。そのうちけろりと忘れて、今度はまったく逆のことを言い出すかもしれない。
それにしても、あの勝気な母が、同世代の女優さんが亡くなったというだけで、こんなに気弱になるなんて。雨の日も、風の日も、夏の暑さにも冬の寒さにも負けず、パート先の歯科医院まで片道40分の道程を自転車で通い、西に魚の特売があると聞けば行って買い占め、東に野菜の産直市があると聞けば行って値切り倒し、早朝のラジオ体操と朝晩1時間のウォーキングをかかさないタフな母も、やはり寄る年波には勝てないということなのか。
大輔のおかげで飛躍的に筋力もついたし、ホームヘルパー2級の免許もある。いつ寝たきりになっても大丈夫だから、意地悪ばあさんでも憎まれっ子でもなんでもいい、大輔が成人して結婚し、子供が出来るまで、どうせならギネスブックの長寿記録を塗り変えるくらい長生きして欲しいと思ったが、今は黙っておくことにした。
「人生って、儚いわねぇ。」
「本当にね。」