世界で一番。

「私のこと好き?」
「好きだよ。」
「どれくらい?」
「世界中の誰よりも。」
何処でも、いつでも、素面でこういう会話ができるのが、恋愛の怖いところ。かく言う私と夫にも、台詞こそ違え、同じやりとりを交わしていた頃があった。今となっては少々恥ずかしい思い出である。
では何故、今更そんな話をするのかというと、昨日、こんなことがあったからである。
風邪を引き、鼻水が一向に止まらない大輔。だのに鼻水を取るのはおろか、拭うのすら断固拒否する。流れ出た鼻水が固まってダムのようになり、酸欠の金魚さながら口をパクパクし始めたのを見て、事態を改善する為には、もはや最終手段しかないと悟った私。最終手段。それは実家の母直伝の技、鼻水を自分の口で吸い取ること。マウス・トゥ・マウス、ならぬマウス・トゥ・ノーズである。
さぞ抵抗するだろうと思いきや、キャッキャと声を上げ、大喜びする大輔。どうやら母が新しい遊びを始めたのだと勘違いしたらしい。私としては、少々塩辛いのが気になるが、息子が喜ぶならそれで満足。鼻もすっきりしたし、今まで息が出来なくて、ろくろく昼寝も出来ずにいたのが、その日は3時間も寝てくれたのだ。その後の機嫌も上々で、言うこと無し。やはり先人の知恵は素晴らしい。
帰宅した夫に、早速その話をすると、何を思ったか自分にも同じことをしてくれと言い出した。
「嫌だね。」
「何でぇ!!」
「君は大人でしょうが。大人なら自分で自分の世話くらいしなさいよ。」
「・・・・やっぱりな。」
「何?」
「俺はどうせ二番目だからな。昔はさ、世界で一番あなたが好き、とか言ってたくせに、今じゃ大輔が一番。一番には出来ても、二番には出来ないんだ。だって、二番だもんな。どうでもいいんだ。そうなんだ。」
「・・・・・・・。」
がっくりとうなだれる夫の背中を見ながら、本当は大輔の次に愛犬トラ、その次が愛犬シロ、その次が夫で、夫の順位は本当は4番目なのだが、彼の心の平安の為に、訂正するのは止めておいた。
それにしても、B型の典型のような性格なのに、よくそんな古い話を覚えていたものである。裏を返せばそれだけ放置していたということか。
そういえば、最近育児に追われて、夫婦の会話もめっきり少なくなっていた。末っ子は甘えん坊(夫は3人兄弟の末っ子)だと言うけれど、40前の、いい大人になってもそうだとは知らなんだ。
寂しさのあまり、ぐれて家出などされないうちに、やはり、もう少しかまっておいた方がいいのかもしれないと考える私だった。