昼下がりの攻防。

子供は大抵そうだが、ウンチをした後の後始末を、大輔は大層嫌がる。問答無用でお尻をひん剥かれ、あられもない姿にされるのが屈辱なのか、ただ単にじっとしているのが嫌なのか、さっぱりして気持ちがいいだろうに、必死になって逃げまわる。
かといって、ウンチのついた状態が好きなのかといえば、答えは否。たまたま別の場所で用事をしていたりして、母が側にいない時にもよおしたりすると、すっきりしてからわざわざ呼びに来る。そして必死に逃げまわる。謎である。
その時、私は部屋に漂う微かな臭いに気付いた。見ればいつ移動したのか、部屋の隅で立ったまま大輔が固まっている。
絡まる視線。高まる緊張。触れれば切れそうに固く冷たく張りつめる空気の中で、母と息子の間で交わされる無言のやりとり。
(やったな。)
(やってない。)
(嘘だ。)
(嘘じゃない。)
微妙な笑顔で私を見上げ、大輔はじりじりと後ずさりを始めた。
(・・なんてな。)
慈母の微笑みを浮かべつつ、間合いを計り、やおら立ち上がる私。そらとばかりに逃げ出す大輔。素晴らしいダッシュ。絶妙なタイミング。チータに追われたサバンナのインパラさながら、瞬時に方向転換し、逃走するその様は、我が息子ながら見事としかいいようがない。
しかしながら彼は忘れていたのだ。その日彼の着ていた服が、足付きのロンパースであったことを。そしてそのロンパースの足にはすべり止めがついていなかったことを。
「あぎゃー!!!!」
なまじダッシュが素晴らしかっただけに、滑って転んだ時の反動はあまりにも大きかった。心の準備などまったく無いまま、人生初の前回りを2回もやる羽目になった大輔、ショックのあまり大号泣。家中はもちろん、おそらく近所中に響き渡っているであろうその声を聞きながら、私は、不用意にお尻を押えつけないよう、慎重に慎重に大輔を抱き上げた。そして、ほぼ間違い無く必要になるロンパースと下着の替えを取りに、二階へと続く階段を上り始めたのだった。
「あぎゃー!!!!」