始めの1歩。

子供の日のプレゼントに、義母からドイツ製の大きな積み木セットをもらった大輔。長いもの、短いもの、円柱、長四角、三角、様々な形の積み木が、ベージュと赤の二種類ワンセットで入っている。大層気に入って、さっそく大きな箱を叩いたり、転がしたりして1日中遊んでいたが、本当はどういう遊び方をするものなのか、全くわかっていないようだった。
それでも、お気に入りの玩具なのは確かなようで、毎日箱から中身をぶちまけては、歯固めがわりにガシガシ齧ったり、両手に持って頭の上で打ち合わせ、リズムに合わせてフラメンコもどきの謎のステップを踏んでいた。
それはね、本当はこうやって積んで遊ぶんだよ。試しに小さなお城を作って見せたのだが、しばらく不思議そうに眺めた後、赤い円柱の積み木を取り上げて、今度は胸の前で打ち合わせながら、謎のダンスを踊り始めるのだった。
それが1歳の誕生日を過ぎたあたりから「これは積み上げて遊べるものらしい」と気付いたようで、部屋いっぱいに積み木をぶちまけては、手当たり次第に重ね始めた。

チャレンジ1:長い円柱を立て、その上に長方形を縦に乗せる。失敗。
チャレンジ2:短い円柱を立て、その上に短い円柱を横にして乗せる。失敗。
チャレンジ3:長方形を縦に置き、その上に長い円柱を縦に乗せる。失敗。
チャレンジ4:長方形を縦に置き、その上に長方形を縦に乗せる。失敗。

「・・・・・・。」
バシッツ!!!(手に持った積み木を畳に叩きつける)
ガシャガシャガシャ!!!(散らばった積み木を無茶苦茶に掻き混ぜる)
「あぎゃー!!!!(キレたらしい。)」

・・・・大輔よ、母でもクリアは無理だぞ、そのチャレンジは。
それでも、そこは根気と執念の幼児大輔。積み上げては失敗し、また積み上げて失敗、そのうちキレて掻き混ぜるという作業を、来る日も来る日も続けていた。
昨日、取りこんだ洗濯物を畳んでいると、大輔が、にこにこしながら呼びに来た。しきりに手をひっぱるので、ついて行くと、盛大に散らかした積み木の前で立ち止まり、得意そうな顔で指差した。見れば、短い円柱の上に、短い長方形がちんまりと乗っている。
「おぉ!出来たね。上手だね。」
「あきゃ!あきゃー!」
よほど嬉しかったのか、両手を上げて喜びのステップを踏む大輔。顔はくしゃくしゃ、上を向いたままくるくる回り、大きな頭が重くてバランスを崩し、時折ひっくりかえりながら踊り続ける。おかしくも可愛いその姿を見ながら、私もなんだか、無性に嬉しくなった。
積み木を二つ積んだだけの、赤とベージュの小さな「T」。いつか大輔が、箱の積み木を全部使って大きなお城を作れるようになった時、私はきっと、この小さな「T」をしみじみ思い出すだろう。その日が1日も早く来て欲しいような、ゆっくりと来て欲しいような、複雑な気持ちになりながら、私は、回り続ける大輔を見ていたのだった。