そして結界は破られた。

その時、私は一人物思いに耽っていた。ふと、何か聞こえたような気がして耳を澄ます。
ヒタヒタヒタ。ヒタヒタヒタ。
誰かが、廊下を歩いている。もう夜は明けたとはいえ、晩秋のこの時期この時間、家の中はまだ暗い。その暗い廊下をヒタヒタとこちらへ向って歩いてくる。ゆっくりと、だが確実にこちらへ向って歩いてくる。
まさか、まさかそんな。
私は思わずドアを見つめる。祈るような思いでドアを見る。足音はやがてドアの前で止まり、一時、静寂が訪れた。が、すぐにドアのノブが激しく動き出した。上に、下に、右に左に、狂ったように動くノブ。まさか、まさかそんなことが。
いや、大丈夫だ。まだ、その時期じゃない。ここには、ここにだけは入ってくることが出来ないはずだ。大丈夫、大丈夫だ。静かにしていれば、そのうち諦めて去っていく。大丈夫、大丈夫・・・・。
唐突に、ノブの動きが止まった。ほっと息をついたその瞬間、ゆっくりと音もなくドアが開いた。
「!!!」
ああ、神よ。
ドアの向こう、薄暗い廊下に立つシルエットを認めた瞬間、私はうめいた。そして、最後の砦とも呼ぶべきこの場所も、もはや安住の地ではなくなったことを深い絶望と共に悟ったのだった。

「あぎゃー。あきゃあきゃ!(抗議しているらしい)」

・・・・・いつかは開けると思ってたけど、大輔。せめてトイレくらいは一人にさせてくれ。お願い。プリーズ。