無念。

大輔より、少しだけ早く目を覚ました朝。貴重な一人の時間、まずは丁寧にコーヒーを淹れることにした。
いつものマグにサーバーをセットし、お気に入りのコーヒーを入れ、ゆっくり縁から回すように少しだけお湯を注ぐ。お湯を含んだコーヒーが褐色の泡を立てて膨らむ様子を見ながら、頃合を見計らってもう一度お湯を注ぐ。うーん、いい匂い。この濃厚な香り。インスタントには出せない深みと香ばしさ。たまらない。存分に楽しみ、さて一口とカップに唇をつけた瞬間、電話が鳴った。
もう、誰だよ、こんな朝早く。いいや、さっさと切っちゃえ。え?大輔?もう起きたの?ちょっと、ちょっと待って。今行くから。今行くから、泣かないでぇ!!
テーブルの上に置かれたまま、忘れられたせっかくのコーヒー。インスタントコーヒーも、豆を選んで丁寧に淹れたコーヒーも、冷めてしまえば同じだと知った35歳の秋。