セント・エルモス・ファイア

静電気体質というものがあるらしい。私はまさにそれ。しかもかなりの重症。エレベーターの昇降ボタンだとか、車のドアやハンドルならまだしも、愛犬の背中に触ろうして火花が散るのはいかがなものか。愛犬びびりすぎて脱糞するし。
私ぐらいの強者になると、もはや季節は関係無い。エヴリタイム。エヴリディ。エヴリウェア。むしろ何も起こらなかった時の方がびっくりする。例えて言うなら、誘っても誘っても頑なに断られ続けてきた女性に、たぶん今回もだめだろうなと思いつつ誘ってみたらば、あっさりOKされてびっくり。嬉しいけど、凄く嬉しいけど、同じくらい不安になる、そんな感じだろうか。<くどい例え
下着はオールコットンだし、子供が生まれてからストッキングは履いてないし、お肌の手入れにも抜かりがない。トルマリングッズも試してみたし、静電気防止靴下、静電気防止座布団、懐具合が許す限り、良いという物は皆試してみた。試してみたのだが、例えば、デパートで化繊のセーター等見ている時に、運悪く同じ静電気体質の女性と触れ合おうものなら、物凄い音と共に稲妻が走るのだ。いい加減慣れたとはいえ、びっくりする。相手はもっとびっくりするけれども。
もういっそのこと、痛いことは痛いけれども死ぬほどのことはなし、無駄な悪あがきを繰り返すより、共存共栄の道を探った方が賢明かもしれないと思うこともある。ソーラーシステムならぬ、静電気システムを開発するとか。無理だと思うけれど。
20年ほど前のこと、パジャマに着替える為、灯りを消した部屋の中でセーターを脱いだ途端、物凄い音と共に青い光が走った。見れば私の腕や肩や胸が青く光っている。鮮やかなコバルトブルーのその光は、よく見れば炎のように揺らめき、微妙に色合いを変えながら私の体を包んでいた。
ふと見れば、ガラス戸に、青く輝く私の半身が映っている。夜の闇を背景に朧に浮かび上がったその姿は、青い炎を上げて震え、やがて消えた。思えばこれが、静電気との長い付き合いの始まりだった。
秋の終りの、ひどく寒い夜のことだった。