それはそれで、凄いものを見たという気も。

大輔を公園に連れていった帰り、自宅近くの交差点で、信号待ちをしていた私の前を、ジョギング途中らしい背の高い男性が、飲み物を片手に、ゆっくりと歩いていった。
すらりと長い脚。そしてその上にある、適度な緊張感を保ちつつ優雅な曲線を描く臀部。歪みの無いしっかりとした骨格の上に乗った必要にして十分な量の背筋と腹筋の絶妙なバランス。肌はしっとりと滑らかで、オリーブ色に輝いていた。
美しい。なんと美しい体だろう。肉体の美を武器に生きている一部の人々を覗いて、今、無防備に横断歩道を渡っている肉体ほど完璧な美を、私は知らない。思わずため息をつきながら私は思った。完璧だ。まさにパーフェクト。
そのパーフェクトな肉体の上に乗っていたのは、笑福亭鶴瓶師匠そっくりな50代前半とおぼしき男性の幸せそうな笑顔だった。
なんで鶴瓶。よりにもよって鶴瓶。ヘアスタイルはもちろん、額の後退具合から毛質までそっくりな、まさに完璧な笑福亭鶴瓶だった。
男性が渡り終えると同時に、信号は青に変わった。
画竜点睛を欠く、知らぬが仏、後ろ別嬪前びっくり、怒涛の如く溢れ出す言葉の波にもまれながら、いつもより少しだけ強くアクセルを踏む私だった。