世界は不思議で満ちている。

特売のムーニーマン・ビッグサイズ・アクティブボーイ(というサブタイトルがついていた)を買出しに行った帰り、信号待ちをしていると、向こうから何やら微妙に違和感のある3人組を従えて、颯爽と歩いてくるミニチュア・ダックスフンドに会った。
正確には3人の男性がミニチュア・ダックスフンドを散歩させていたのだが、お互い会話する事も無く、視線もあわさず、むろん微笑み会うことなど全く無いまま、ダックスフンドを取り囲むようにして、黙々と歩くその様子が、さながら国際スターを警護するボディガードのようで、そこはかとなく異様だった。
40代後半くらいのがっしりした体格の男性が、体を心持ち反らせるようにして、辺りを睥睨しつつ先頭を歩き、そのすぐ後ろを、ほっそりと背の高い20代前半くらいの男性が、首輪とお揃いの赤いリードを持ち、何やら落ちつかない様子で続く。その彼から半歩下がった左側を、これまた体格のいい、そしてかなり強面な50代半ばくらいの男性が、ウンコ回収用であろう白いビニール袋を手に、悠然と歩いていた。
先頭の男性は紫のスーツに赤いネクタイ、リードを持った青年は黒のスーツに紺のドット柄のネクタイ、ビニール袋を下げた男性は黒のブルゾンに皮のパンツ姿。スーツ姿で犬の散歩というのも凄いが、昼下がりの住宅街を、沈痛な面持ちの成人男性が3人、微妙な緊張感を漂わせつつ歩く姿はなかなかシュールだった。

あれは、一体、何?

視線を合わせないよう、助手席の大輔に、意味も無く笑いかけながら、頭の中で物凄い勢いでいろんな想像が渦を巻く私。

どう見ても家族ではないし、友人でもない。同僚もしくは上司と部下、というには、それぞれの雰囲気が微妙過ぎる。壮年の男性二人の全身から放たれる異様な迫力、そしてその二人に挟まれた青年の、表情の端々に滲むこれまた異様な緊張と怯えから察するに、

家族構成を一切知らされないまま、交際していた彼女の家に挨拶に行ったところ、明らかに堅気ではない父と「たまたま」そこに居た父の友人から、その家の愛犬「リリー」の散歩に付き合うよう強要され、断ることもできず散歩に出た青年

一見普通、実はその筋の経営するスナックに、そうとは知らずに営業に訪れ、明らかに堅気ではないマスターと、「たまたま」そこに居たオーナーから、オーナーの愛犬「リリー」の散歩に付き合うよう言われ、断ることもできず散歩に出た新人営業マン

他にもいろんなシチュエーションが想像できるが、一つだけ確かなことは、あのダックスフンドは、恐らくいつもより長い距離をゆっくり散歩できて、きっと幸せだったに違いにないということだった。
「わんわん!わんわん!」
「そうだね、わんわんだねぇ。」