冬の匂い。

昨日、一昨日と、風の強い日が続いた。

ガレージ一面に吹き散らかされた枯葉を掃き集めていると、空気の匂いが変わっていることに気がついた。手を止め、顔を上げて胸いっぱいに空気を吸い込んでみる。庭先から、じっとこちらを見ていた飼い犬も、真似をして鼻を空に向け、訳もわからず匂いを嗅いでいる。

ああ、これだ。確かにこの匂いだ。覚えている。私は知っている。この匂い。

懐かしい匂いだ。子供の頃によく嗅いだ匂いだ。暖かい、楽しい、優しい思い出に繋がる匂いだ。ガラス戸を曇らせ、湯気をたてさせ、赤く凍えた手を温める。

目を閉じると、家族の笑い声が聞こえた。玩具を取り合って喧嘩する子供の声が聞こえた。父親の声。母親の声。祖父母の声。弟の声。久しく会っていない友人達の声。輪郭も朧な昔の恋人の声。
ずっと昔に流行った流行歌が聞こえた。風の音が聞こえた。風が木の葉を散らす音が聞こえた。風が窓を叩く音が聞こえた。


目を開き、私はガレージを掃き始める。飼い犬は小屋の中に入り、体を丸めて目を閉じる。空は高く、雲はゆっくりと流れた。遠くで鳶が鳴き、どこかで子供のはしゃぐ声がした。私はまだガレージを掃いている。ゆっくりゆっくり掃いている。



お隣では、そろそろ石油ストーブを焚き始めたらしい。